時代を読む:「嶌信彦の眼」 激化する大学の生き残り競争

嶌信彦のコラム 2007年11月6日

http://mainichi.jp/select/biz/shima/news/20071106org00m020024000c.html
 
◇日本は世界大学ランキングで劣位

 企業のグローバル化はもう当たり前の時代となった。グローバル競争に備えた再編やM&A(企業買収)、事業の選択と集中、リストラなどはもはや中盤から最終局面に入ってきたといえるかもしれない。

 企業と並んでグローバル競争が激しくなっているのは、実は「大学」である。これからの人材は、基礎的な学問はもちろんのこと世界を超す技術や独創性、国際的ネットワークの人脈などが評価の大きな対象となる世の中になってきた。国内の有名大学を出たからといって、国際派として通用しなければ二流の会社員とらく印を押されかねない時代なのである。すでに韓国ではアメリカの大学のMBAをとっていても安閑としていられず、トップエリートをめざすにはハーバード、エール大などのMBA、博士号が必要だという。

◇東大19位、早稲田は158位

 そんな世界の潮流が際立ってきたせいか、いまや世界の大学ランキングの掲載が目につくようになった。たとえばイギリスの「タイムズ」紙は、毎年世界の大学を対象にランキングを発表、各国の大学関係者の神経をとがらせている。ちなみに同紙が発表した2006年の「世界大学ランキング」は次の通りだ。

 (1)ハーバード(2)ケンブリッジ(3)オックスフォード(4)エール(4)マサチューセッツ工科大(6)スタンフォード(7)カリフォルニア工科大(8)カリフォルニア大バークレイ校(9)ロンドン大インペリアルカレッジ(10)プリンストン大(11)シカゴ大(12)コロンビア(13)デューク(14)北京大(15)コーネル(16)オーストラリア国立大(17)ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(18)フランス高等師範学校(19)シンガポール国立大(19)東京大-- がベスト20。日本の大学を探すと京都大が29位。大阪大が70位。東京工業大118位、慶応120位、九州大128位、名古屋大128位、北海道大133位、早稲田大158位。などとなっている。

 タイムズの評価の物差しは(1)大学関係者の「ピュアレビュー」による評価(2)学生数に対する教員スタッフ数(3)留学生比率(4)外国人教員比率(5)論文引用度(6)企業の人事担当者による評価 -ということらしい。

 こうした大学ランキングの掲載は、ニューズウィーク誌やUSニューズ&ワールドレポート誌などのメディアだけでなく、上海交通大学など大学自身が独自の指標をつくって大学の格付けを行っている。評価基準はタイムズ紙と似ているが、このほかに論文の引用回数が多い研究者の所有数、図書館の蔵書数、財政基盤、卒業生のパフォーマンス、同窓生の寄付率、高校成績上位10%の学生の比率、卒業率、学生の選抜性などの評価基準を入れているところも多いようだ。

 しかし各誌のランキングを見る限り、アメリカの大学の優位性が目立っている。タイムズ紙の場合、アメリカの大学はトップ10に7校、トップ20に11校、トップ50では22校が入っており、大体半分を占めている。評価基準の方からその理由をさぐると、アメリカの大学は「論文の引用」が圧倒的に多く、ピュアレビューや教員スタッフ比率も他校をしのいでいるという。ただ、最近は大学生そのものの「質」の良し悪しが大学ランキングの順位に関係するウエイトが高まっているといわれ、海外留学生も含めどれだけ優秀な学生を集めるかという競争も激化しそうだ。

◇日本は偏差値ランキング

 日本でも国内大学ランキングがあるようだが、ほとんどの場合は入学試験時の偏差値が基準になっていることが多い。しかし、日本では大学に入学する時は難しいが、一度入ってしまうと在学中にほとんど勉強せず、アルバイトと遊びなどに明け暮れていても卒業は簡単にできる仕組みとなっている。大学側も学生も、在学中の学問にほとんど関心がなく、結局、就職向けの肩書きに利用するだけといったケースが多いとみてよかろう。

 これがアメリカなど欧米の大学になると、たとえ入学は易しくても在学中の勉強は厳しく卒業が難しい。毎週、山のような読書、リポート提出、発表などを義務づれられ、基礎的な教養、モノごとを考える方法論、プレゼンテーションの手法、人前で喋る説得法、ディベート技術などをたたき込まれる。そしてさらにその先のエリートをめざす学生たちは経営学修士(MBA)や弁護士資格を取るためのロースクール、理工学博士や医学博士のコースなどへ進むのである。

 グローバル化時代に突入し、企業も大企業、中堅企業を問わず国際社会で競争さぜるを得なくなってくると、企業側の社員に対するニーズは国際社会で十分通用する人材ということになる。むろんそれは企業ばかりでなく弁護士、公認会計士といった職業や学者、研究者などもグローバル時代に対応できなければ評価されなくなっている。

◇大学合併、海外留学の時代へ

 こうした時代の潮流変化は当然ながら大学や学生に敏感に反映している。高度成長、バブル期までは国内需要が旺盛で、企業は国内マーケットの動向に目を配ることが一番だった。国際派は貴重な存在ではあったが社内競争、政治からみると傍流扱いされた。“平家、海軍、国際派”とヤユされ負け組に列せられたのである。

 しかし今や多くの企業は輸出で稼ぐだけでなく工場は人件費コストなどの安い海外に建設するし、トップは年に数回は海外の機関投資家などに企業業績、経営方針、株主政策などの説明に出ることを余儀なくされているのが実情だ。奥田碩・前経団連会長、御手洗冨士夫・経団連会長らはトヨタ、キャノンの海外駐在が長かった経験者だし、最近は海外経験なくしてトップになる人が珍しくなっているほどだ。

 そうなると大学も変わらざるを得ない。しかも少子高齢化、人口減少社会の到来で大学入学者が今後激減し、大学の生き残り競争が激化する一方なのだ。また今後は国際化に対応できる教養やスキルを身につけたいとする学生側のエリート層も日本の大学をパスして直接欧米や中国の大学に留学する傾向が増えていく。かつては企業に入ってから会社の負担で2~3年留学する制度が利用されていたが、もはや高校、大学時代から直接世界の中から学校を選ぶ時代となってきたのだ。

 このため、国内の大学間競争が激しくなっている。慶応と共立薬科大が合併し、医科薬部門を強化すれば、早稲田も東京女子医大と提携し対抗するといった具合だ。東大、早稲田、関西大学などはカリキュラムを大幅に変え“学際的”な学問を重視、大学から“知の発信”を増やし、世界ランキング入りして海外の優秀な留学生を増大させたいとしている。海外留学生がふえれば、日本のキャンパス内でも異文化とふれあい、海外人脈ネットワーク形成にも役立つというわけだ。

 アメリカやイギリスでは博士号取得者のうち外国人留学生が30%以上を占めるという。またヨーロッパの大学で毎年14万人以上の学生が学部課程で留学する制度を利用しているし、米・中、米・独、米・シンガポールなど欧米とアジアの大学が協力しあい、共同の研究センターなどを設置している。たとえば上海・復旦大学とエール大、北京大とエール大の医学や農業の研究所などで、双方が往来しているという。

 いま特に大学に力を入れているのは中国とインドだ。文系、理系だけでなくファッションやアート、アニメ、農業など多分野にわたって専門家や技術者を養成しているのだ。日本は生き残りをかけた大学の再編合併時代に突入していることは間違いないが、大学の質も高くならない限り、学生たちは今後、アジアや欧米の大学へと選択肢をどんどん広げていくことだろう。また企業もそうした学生を狙うようになるのではなかろうか。[TSR情報10月9日号(同日発刊)]

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