公立中高一貫校、応用力重視で人気

毎日新聞 2008年2月25日 
http://mainichi.jp/life/edu/news/20080225ddm004100158000c.html
独自カリキュラムで差別化、都市部で高倍率

 公立の中高一貫校が増えている。思考力や応用力を養う独自のカリキュラムが人気で、都市部で多くの志願者を集めている。私立や一般の公立中学とはどう異なるのか、探った。【山本紀子、市川明代】

◆外国人と英会話
 「冬休みはどこに行きましたか」。東京都千代田区立九段中等教育学校の1年生の教室で、講師のインド人留学生、ムルガンさんが生徒に英語で問いかけ、次々と指名していく。男子生徒の一人は「I go to grandmother’s house」と答えたが、時制の誤りに気づき「I went」と慌てて言い直した。

 英語を話す体験を培うため導入した「イングリッシュシャワー」の一こまだ。1時限目が始まる前の午前8時から20分間、外国人留学生と英語でやりとりする。1年生は文法の知識も不十分で、聞き取れずに困った表情で考え込む子もいる。しかし、多くの生徒は友達の手助けや雰囲気で意味をくみとり、つたないながらも英語で答えを返す。

 担当の松尾聡美教諭は「英語力よりむしろ、間違えてもいいから話す勇気を身につけてほしい」と話す。国際理解を深めるためバングラデシュや中国など英語圏以外の留学生も講師に加えている。

 公立の中高一貫校は自校の目標に沿った独自の学習プログラムを持つ。都立九段高校の一貫校である九段中は英会話のように体験型の学びを重視し、移動教室で自然観察を充実したり、豪州でのホームステイを行う。一方、05年に都立校で初の公立中高一貫校として開校した白鴎高校付属中は「日本の伝統を学ぶ」を目標の一つとし、日本文化概論や邦楽を授業に取り入れている。

◆07年度には149校
  公立の中高一貫校は99年、文部省(現文部科学省)が「個性を育て中等教育の多様化を進める」との目的で制度化した。07年度で149校あり、500校に増やす。学区は広く、都道府県や市区に在住していることを条件にする自治体が多い。

 高校には基本的に受験なしで進むことができ、6年間余裕を持って学べるのが特徴。高校の教科書を中学で使ったり、中学3年で学ぶ内容を先取りして2年生で教えることもできる。しかし、高校入試がなく「中だるみしやすい」と指摘されるため漢字検定や英検を必修とし緊張感を保つ学校もある。

 また、中学に入学する際、教科別の試験はない。学校教育法施行規則が公立中で入学テストをしないと定めているためだ。しかし、何らかの方法で選抜が必要で、適性検査と呼ばれる学力検査や面接、調査書診断で合格者が決まる。試験ではなく「検査」と呼び、「受験」ではなく「受検」と表現している。

◆名門進学校に殺到

 千葉の進学校・県立千葉高校との一貫校・千葉中は今年初めて志願者を募り、27倍という驚異的な倍率となった。定員80人で、適性検査の第1次検査は2142人、面接とさらに適性検査をする2次検査は478人が受検した。名門に入ろうとする子どもが県内から広く集まった。

 合格した女子児童(12)は「授業は考えたり調べたりするのが中心と知り、自分に向いていると思った」と志望の理由を説明した。塾通いしたが私立受験は考えなかった。勉強は1日30分~1時間で友達と遊ぶ時間もあったという。「私立を受ける子は親が毎日、学校から塾へ送り迎えしていて、大変そうだった」と振り返る。女児は千葉市の隣の市から通うことになるが、母親は「地元の公立中でもいいと思っていた。でも、千葉中ができると知り、学費もかからないので、受検を勧めた」と語った。

 別の男子児童(12)の母親は「試験なしで千葉高校に行けるので志望した。私立中受験には猛勉強が必要で、落ちると精神的ダメージも大きいと聞くが、公立なら気楽だと思った。80人の少人数で、細かく見てくれると思う」と期待する。

◆低倍率に泣いた学校も

 新しい教育への期待から、中高一貫校は志願倍率が高くなる傾向にある。昨春一貫校となったさいたま市立浦和中は25・2倍、都立白鴎高等学校付属中は初年度に14倍を超えた。今春入試では▽茨城県立並木中7・22倍▽大阪市立咲くやこの花中14・89倍▽徳島県立城ノ内中4・62倍▽長崎県立長崎東中4・02倍(ベネッセコーポレーション調べ)--と、軒並み高くなっている。

 逆に定員を割る学校もある。香川県三豊市の県立高瀬のぞみが丘中は今春、定員80人に対し受検者は49人。2年連続で定員割れしたことから、県は来春から新入生の募集をやめて3年後には閉校する。地元の中学以外の学校に通うことへの抵抗感があるほか、交通の便が悪いことが災いしたとみられ、生徒を車で送り迎えする保護者もいたという。県教委は「わざわざ遠い場所にある学校に通うことを好まない傾向があり、学校を存続していくのは難しいと判断した」と説明する。

 福島県境の山間地にある新潟県立阿賀黎明中も創立7年目の今年、倍率が0・73倍と1倍を切った。今春、町村合併に伴う学校統合で誕生した近くの公立中に、志願者を奪われたためだ。地方では学校に魅力がないと生徒の確保は難しい。

◇考える力問う適性検査--塾などは受検対策に本腰

 各地の公立中高一貫校の検査を分析するベネッセ教育研究開発センター研究員、中垣真紀さんは「思考力を問う良い問題。長い文章を読んで分析したり、自分の意見を書いたり、考える訓練を積んでおく必要がある」と指摘する。千葉中でも分析力を問う問題が数多く出された。2次検査では「みんなが仲良く暮らせるようになる」ための具体策について、文章の読み取りとスピーチの聞き取りをしたうえで、自分の体験をもとに、300字以上400字以内で書かせる問題もあった。

 コミュニケーション力を測ろうとする試みもある。宮崎県立五ケ瀬中等教育学校では、グループで話し合い「食事の大切さ」をテーマにした劇を作って発表させ、秋田県立大館国際情報学院中は「留学生とどう交流するのか」について意見を発表し、話し合わせた。

 ベネッセ小学生商品開発部の橋本正明さんは「まるで入社試験。自主性や向上心も見極め、社会に役立つ人材をどう選び、育てるのかを考えているのだろう」と分析する。ベネッセも公立中高一貫校に入るための対策模試を始めたり、志願書の書き方を指導する本を出すなど、専門の教材開発に乗り出している。

 塾も対策を練り始めた。千葉中の開設をにらみ、千葉市の誉田進学塾は小学6年生の夏から専門のクラスを週1回開講し、作文の書き方などを指導した。

 清水貫代表は「解き方を徹底的に暗記している私立中受験生に有利な問題もあったが、知識の詰め込みでは解けない練った問題が多い。10ページにわたる長文を読みこなし、45分以内に解答するには慣れも必要。塾に行かずに合格するのは、かなり難しいだろう」と話す。

 

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