公立中高一貫校(下) 実績作り最優先の懸念
2008年2月5日 中日新聞
特色あるカリキュラムや授業料の安さで人気が高まる公立中高一貫校だが、新設校ならではの悩みや一貫校の課題、公立ゆえのデメリットがある。進学にはこうした問題を理解し、納得してから決めることが必要なようだ。 (井上圭子)
「君が伝統だ」
四月に開校する千葉県立千葉中学校のリーフレットの表紙には、大きな字でこう書かれている。
しかし、同校に合格したある男子生徒の母親は「この子たちが伝統を築いていくという誇らしさがある半面、実際に事前説明通りの教育をしてもらえるのか、不安もある。大事な時期の子を六年間も預けるのは大きな賭け」と打ち明ける。
公立一貫校は、首都圏では二〇〇二年に開設された都立白鴎高校付属中学校が最初だ。まだ卒業生は出ていない。森上教育研究所の森上展安代表は「一貫校には公立の復権がかかっている。(国公立大進学実績など)結果はだしてくるだろう」と分析するが「一期生の進路を見るまでは」と慎重な親は多い。
新設校としての悩みがある。既存の高校と中学を一体化させた場合、六学年の生徒が一緒になる。なかには一貫校を望んでいなかった生徒もいて、人間関係のあつれきが生まれる場合も。土曜補習を必修化した都内のある一貫校では、開校当初、学校の方針に反発した上級生が一年生の授業を妨害する騒ぎがあった。
「高校の校舎に中学が間借りする形の場合、特別教室の使用が高校優先で中学生には使い勝手が悪いケースもある」(森上代表)と施設面の課題もある。
保護者の関心が高いから「何としても結果を出さねばという重圧」(都内のある公立中高一貫校の副校長)がある。生徒からは「試験の点数が足りないと部活をさせてもらえないのが不満」など、大学進学など「結果」最優先になる懸念がある。
一方、中高一貫校ならではの課題もある。森上代表は「高校受験がないので学習モチベーションを持続させる仕組みが必要」と中だるみの危険性を指摘する。
さらに首都圏の一貫校では中等部一学年二-四クラスと必ずしも生徒数は多くない。森上代表は「六年間を通して濃密な人間関係が築ける半面、顔触れが変わらないと集団内の役割が固定化されがち。共学だと成長の早い女子に牛耳られる可能性が高く、成長期が遅い子には不利」と人間関係への不安も指摘する。
公立ゆえのデメリットは、教員の異動だ。都立だと長くても六年で異動対象になり、実際はそれより短いのが現状。校長も例外でなく、都内では開設二年目に二校の校長が交代した。「教員が一人の生徒とじっくり向き合える」という一貫校のメリットには反する。私立中高一貫校は学校間の異動はない。卒業後も教え子と教員との交流が続くことも多い。「知事も変わる。(公立の)教育行政が変わる可能性も当然ある」(森上代表)
地方では早くも募集を停止したケースが出た。〇二年に開校した香川県立高瀬のぞみが丘中学校。初年度は三倍を超えたが一昨年から二年連続定員割れし、県教委は昨秋「単学級では授業や行事運営に支障が出る」と閉校を決めた。担当者は「さまざまな個性を伸ばしたかったが、総花的で魅力薄に受け取られた」と語る。
首都圏の公立一貫校は個性づくりに励むが、進学には心構えが必要だ。県立千葉中学校は一日七コマの授業や土曜日にも補習がある。配布書類に「厳しい面があることも覚悟を」と明記している。
都立小石川中等教育学校の栗原卯田子校長は「『乗り込んだからひと安心』という船はない。道は自分で切り開いてほしい」とくぎを刺す。千代田区立九段中等教育学校の高木克校長も学校説明会では必ず「とにかく勉強させる。方針に納得した人だけ来てほしい」と念を押している。
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2008020502085129.html